2016-01-03 00:23 | カテゴリ:クリムトの歴史

映画「黄金のアデーレ」ブチ切れ記事から、段々当時の歴史に興味が出てきて、どんどん映画からら離れて史実を調べまくっています。

 

映画「黄金のアデーレ」に関する記事はクリムトの歴史カテゴリへどうぞ。

 

今回は、アルトマンとランディ弁護士を助ける、唯一「いいもの」のオーストリア人、チェルニンについてわかったことを書きます。

 

映画を見たほとんどの人は知らないと思いますが、チェルニンはオーストリア人ならだれでも知っている、超有名ジャーナリストです。調べてみてその大物っぷりにびっくりです。

 

<ジャーナリスト フベルトゥス・チェルニン>

 

Hubertus Czernin

 

この事件のカギを握るジャーナリストHubertus Czerninという人物について見ていきましょう。

 

この人を掘り返すだけでも本が書けそうなすごい人物です。この事件で唯一アルトマン側のオーストリア人ですので、さぞ反ナチユダヤ人かと思われましたが、彼はほとんどナチスともユダヤ人とも関係のない出自です。

 

映画では、父親がナチス党員で、のちに反逆罪で投獄されたから、ナチスに恨みを持っていて協力する、という動機が描かれていますが、これは完全に史実に反します。実際チェルニンが父親とナチスの関係を知ったのは、本人の死の直前、2006年の事です。

 

チェルニンは12世紀から続くボヘミアの古い貴族の生まれ。ウィーン枢機卿シェーンボルン氏は彼のことを「いとこ」と言っていますので、親戚関係にあるようです。

 

そんな由緒正しい生まれですが、彼は歴史、美術史、ジャーナリズムを専攻し、オーストリアの有名報道誌Profilで記者をしていて、30代で編集長になります。

 

彼が関わった大きな事件を上げるだけでも、オーストリアの歴史が何度もひっくり返りそうになります。彼はクルト・ヴァルドハイムのナチ疑惑をすっぱ抜いた人物であり、また大司教の同性愛疑惑を暴いた本人でもあります。

 

・元国連事務総長で元オーストリア首相ヴァルトハイムのナチ疑惑

 

10年間国連事務総長を勤めたあと、オーストリア首相選挙に立候補していた当時のヴァルトハイムがナチスの突撃隊に所属していたことが判明。世界的な大疑惑となるが、オーストリア国民はこれを内政干渉としてヴァるとハイムは当選。しかし、各国から「ペルソナ・ノン・グラータ」に指定され、6年間の任期の間ほとんど外国を訪問できなかった。

 

後の調査により、ユーゴスラビアで残虐行為を働いたドイツ国防軍の通訳を務めていたことが判明するが、戦争犯罪には無関係であったとされる。また、ギリシャでユダヤ人強制収容が行われた土地の近くでも働いており、関与が疑われていた。

 

本人は一部の事実を隠したことは認めたが、突撃隊やユーゴスラビア、ギリシャでの戦争犯罪の直接関与は否定しており、証拠も出てきていない。

 

これ以上ヴァルトハイム事件について書くと話がそれてしまうけれど、オーストリアだけでなく世界にとっても大スキャンダルであったこの事件を、1986年に暴いたジャーナリストの一人がチェルニンだった。

 

・大司教Hans Hermann Groër同性愛事件

 

オーストリアではカトリックの聖職者と未成年の少年との性交が暴かれ、大きなスキャンダルとなりました。その中でも最高位の聖職者だったこのGroërは、バチカンによって後に教皇庁を追われました。

 

チェルニンは1992年にこのスキャンダルを取り上げ、マスコミだけでなく世界中に衝撃を与えました。(彼が主張する2000人以上の少年のソースがどこから来たのは不明のようですが)

 

・裸の首相と自身の編集長辞職事件

 

この後チェルニンは、自分が編集長であるProfil誌の表紙に、オーストリア首相Vranitzkyの頭に裸の体をコラージュしたデザインを使ったことで、時の政府から編集長を辞職させられ、野党側が表現の自由を掲げてデモを起こしました。(いわゆるRauswurf事件)

 

その後彼は自分で出版社を立ち上げ、複数の書籍を出版する中、1998年にアデーレ事件の発端を開く発見をします。

 

・アデーレ事件への関与

 

1997年、ベルヴェデーレからNYに貸与され、臨時展で展示されていた二枚のエゴン・シーレの絵画が、ナチスによって押収されたものとして所有権が争われました。その時オーストリア政府は、調査のためにベルヴェデーレの書庫をジャーナリストに開放し、隠すことがないことをアピールしました。

 

この機会にチェルニンはベルヴェデーレの書庫を調査し、5枚(実際は6枚)のクリムトの絵画の所有権を疑問視させる文書(アデーレとFerdinandの遺言)を発見し、アルトマンに通知します。

 

逆に言うと、このチェルニンの地道な調査と発見がなければ、アルトマン訴訟はそもそも始まらなかったのです。この事件の決め手を握る人物は、実はオーストリア人(それもユダヤ人ですらない)だったのです。

 

なぜチェルニンがこんなに全てのオーストリア人から「余計なことをしやがって。。」と思われることをやったのか、ちょっと考えてみました。

 

まず、彼がユダヤ人だから、というのが一番ありうる理由ですが、彼の出自は古いボヘミアの貴族です。2006年の死の直前になって、彼の父親がナチス党員があった(後に反逆罪でナチスに投獄された)ことがわかりますが、アデーレ事件の時点ではこのことを彼は知りません。

 

それではなぜオーストリア人がオーストリア人を裏切るようなことをしたのか?彼の過去のスクープを見たらわかる気がします。ヴァルトハイム事件にしても、大司教事件にしても、正直オーストリア人からしたらスキャンダルばかりです。

 

別に彼がオーストリアを嫌いだったわけではないとは思いますが、オーストリアに、そして世界にショックを与えるスクープこそ、彼の生きがいだったのではないでしょうか。古い貴族の名家に生まれ、どこでそうなってしまったのかわかりませんが、ジャーナリストとしては一流の人物だったと言えそうです。

 

また、彼が死亡する直前、アデーレ事件が解決した直後の2006年にStandard氏のインタビューに答えたものが残っています。

 

"Das alles ist eine riesige Frechheit" - Restitutionsfragen - derStandard.at › Kultur

 

「アデーレ事件でアルトマンが絵画を取り戻すきっかけになったのはあなたです。こういう結果になって誇りに思っていますか?勝利ですか?」という質問に対して「勝利者だとは思っていません。ヴァルトハイム事件も、ハイダー事件も、自分の報道が何かを変えることができたわけではなかった。仕事上で言えば、この事件がハッピーエンドで終わった初めての事件です。」と言っています。

 

ユダヤ人やナチスがどうとか関係なく、自らの報道で世界を変えたいと望んでいた、ジャーナリスト魂の塊のような人物だったようですね。

 

 

 

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