2015-12-11 16:37 | カテゴリ:クリムトの歴史

ウィーン好きな方やクリムト好きな方ならもしかしたら見に行かれたかもしれない映画「黄金のアデーレ」ですが、ウィーン視点から見るとおかしなところが沢山あります。

 

そんな記事をクリムトの歴史カテゴリにまとめていますので、関連記事に興味のある方読んでみてください。

 

Adele Bloch-Bauer I (Gustav Klimt)

Adele Bloch-Bauer I, 1907

 

映画「黄金のアデーレ」が作られる前に、二つのドキュメンタリー映像が作られていたことをご存知ですか?

 

どちらもマリア・アルトマンやランディ・シェーンベルクなどの実在の人物がインタビューに答え、実物や実際の土地が映像として登場しますので、映画より実話に近い作りになっています。

 

こういう映像を2本も作ってしまうんですから、映画以前にも自己正当化する気満々だったんですね。けど、ドキュメンタリーではうさん臭さを隠し切れなかったので、女優を使い再現映像で美化した映画を作ることで、この捏造美談の嘘くささを消そうとしたんではないかと勘ぐってしまいます。

 

この2本のドキュメンタリー映像のうち、今日ご紹介するのは最初に作られたもの。2006年の映像ですので、絵画の所有権が彼女に移った後、オークションで売却される前という時期です。売却前ですので、見方によっては説得力のある内容です。(やはりこの美談は売却することで一気にひっくり返ってしまいますからね。。)

 

ビデオのタイトルをここに入力します

 

英語ですが、結構長いので内容を解説します。インタビューされるのは、マリア・アルトマンとランディ・シェーンベルク以外に、ベルヴェデーレ側の弁護士、オーストリア人学芸員、オーストリア人芸術史の専門家、アメリカ人ホロコースト歴史学者、オーストリア人教授等。

 

最初の3分でGottfried Tomanというベルヴェデーレ側の弁護士が話します。「この絵画はオーストリアの物です。この絵画はナチに盗難されたと主張していますが、遺言や契約があれば、後でそのどのような形でそこに来ることになったかは重要ではないのです。」(←一見冷たいことを言っているようだが、全く普通の主張)

 

その後も彼の発言が挿入されますが、先にまとめておきます。

 

「この絵画はアデーレのものと認める証拠があります。」

 

「アルトマンの主張は、Personal History Life(個人的な人生史)に偏っている。彼女はホロコーストの犠牲者だが、その事実はアデーレの絵画の所有権とは直接関係がない。」

 

上記の彼の発言は、至極まともで常識的なことを言っているが、妙に編集され、最も感じ悪く聞こえるタイミングで挿入されているという印象を受けました。例えば、延々とナチスの酷さを訴える映像を流した後で「ホロコーストの酷さとこの絵画の所有権とは関係ある?」みたいな感じで、悪意の感じられる編集の犠牲になっている様に見えます。

 

 

シェーンベルク弁護士(ランディ)とマリア・アルトマンのインタビュー映像もあります。ランディ弁護士は、アデーレの遺言によってオーストリアが所有しているということは「事実正しくない」と主張(←わざとぼかして表現して、まるで正しいように映像化していますが、実際は1998年までは、アデーレの遺言以外の文書が発見されていなかったわけですから、オーストリアはしっかりと一般に展示していただけなんですよね。。)

 

アデーレの住居は18 Elisabethstrasse。ウィーン造形美術アカデミーの近所。ヒトラーがウィーンの造形美術アカデミーの試験を落ちて画家になれなかったと言及されます。(←それは今回のアデーレ騒動は関係ないだろう。。無理やりナチスネタを混ぜてきてる感が。。)

 

アデーレの住居も没収(売却)され、ドイツ鉄道の本部となった。その場所はオーストリア鉄道に引き継がれ、今はOeBB(オーストリア国鉄)が入っている。

 

アデーレの夫、Ferdinand Bloch-Bauerについて。砂糖工場の社長で金持ち。住居の写真も写ります。

 

Ferdinandは金持ちのユダヤ人で、ナチに不当に多額の脱税を指摘され、財産を現金化する必要があった。その際現金化担当者(Ferdinandの代理人だがナチス側の人物)はErik Fuerher。

 

この担当者ははアデーレIとIIをベルヴェデーレに持ち込み、その後アデーレIを持ち出してクリムトの非嫡出子に売った。アデーレIIはベルヴェデーレに。他の絵画もバラバラになった。

 

1941年にこの代理人からベルヴェデーレの美術館に対して、「アデーレ」と「リンゴの木」の二枚の絵画を取りに来るようにとの手紙が残っているが、これがFerdinandが絵の所有者だったという証拠として提出されている。

 

実際は絵画はナチスに没収されたという単純な話ではなく、代理人が売ろうとして不当に安い値段で買い取られ、また買い戻そうとして、結局別の絵と交換させられた、といった複雑な背景。(←没収というと感じが悪いので、その辺りはナチスも抜け目ない。しかしこの映像の最後の方で、シェーンベルク弁護士は「盗まれた」とはっきり言っている。正確には「不当に買いたたかれた」のに「盗まれた」という表現は正確さに欠ける。)

 

おまけに、当のFerdinandはスイスに亡命中で、代理人のこの動きをコントロールできたわけではなく、代理人に裏切られたと怒り、絵を取り戻したいと言っていた。(←そもそも代理人はナチス側の人間だから、裏切るも何もないと思うんだが。。)

 

Ferdinandは売られた絵画を追跡しようとした。アデーレが夫Ferdinandに残した、オーストリアの美術館に寄贈するというお願いは、この時点で無効になった(とアルトマン側は主張する)。その後すぐ、1945年にFerdinandは亡くなった。その際の遺言には、「過去の遺言はすべて無効に。1/4ずつは二人の姪に、半分は甥に遺す、という内容だった。

 

マリア・アルトマンの兄Robert Bentleyが依頼した弁護士が一度Ferndinandの絵を取り返そうとした。あまり細かい取り決めをオーストリアと結ばなかったが、実際クリムトを除く多くの絵画は取り戻された。その後、Ferdinandの遺言を詳細に見てみて、このやり方が間違っていた(すべての絵画を取り戻す根拠があった)と気が付いた。

 

ナチスによるクリムトの展示の映像。アデーレ・ブロッホバウアーと本名を書くと、名前でユダヤ人であることがバレるので、Woman in Goldというタイトルでユダヤ性を隠された。(←だからって、ナチスの真似してこの映画のタイトルも同じにすることないじゃん。)

 

絵画発見の経緯。1997年2枚のエゴン・シーレの絵画がNYで展示中、この絵画がウィーンでユダヤ人から没収されたことが判明。ウィーンのアーカイブが開かれ、他の絵画も合わせて調査が行われた。1998年調査が始まり、ロスチャイルド家所蔵を含む絵画が返還された。マリア・アルトマンにも16枚の絵画が返却されている(←つまり、オーストリアがアルトマンをだましていたわけではない。返却の際、アデーレ本人の遺言に基づいて、5枚の絵画はベルヴェデーレに残った)

 

歴史美術史専門家:この時に絵画を取り返そうとしていた人達は、家族の名誉や歴史の為で、お金や売却目的の人はいなかった(←アルトマンは速攻売り払ったけどねw)

 

この映像の最後で、アルトマンは「子供が7人、孫も生まれた。オーストリアにアデーレの絵が残れるようと言った」と言っている。(←正直、その後のバラバラ売却の事を知ってこれを聞くと、はあ?って感じだよね。)

 

 

結構内容にかっこでツッコみ入れさせてもらったけど、冷静に見て気が付いた点

 

・ナチスの酷さ、ユダヤ人のかわいそうさが盛りだくさんでエモーショナルに訴えて来る構成

・「証拠がある!」「盗まれた!」「騙された!」という割に、せっかくのドキュメンタリー映像なのに、その証拠の映像も内容も出てこないのはなんで?

・ランディ弁護士が「盗まれた!」って言ってるのに、他の専門家が正確な事実を言うもんだから、内容が矛盾してたり、正確さに欠けてたりする。ドキュメンタリーなら真実を正確に映像化する物なんじゃないの?

・ベルヴェデーレ側弁護士がすごい悪者に聞こえるように編集されてる。かわいそうなユダヤ人に同情できない冷血漢みたいな。この弁護士、よく敵側のドキュメンタリーなんて出る決断をしたもんだ。それだけでも感謝すべきなのに、こんなひどい編集されて本当にかわいそう。これだけ見たらこの弁護士、悪者に見える。。映画と同じで、現代のナチスの残党の悪いオーストリア人的なイメージになってる。。

・オーストリア人でインタビューに答えている人(学芸員のおじちゃん、教授のおじいさん、歴史家の女性)は真摯に答えているという印象。言葉を選んで、どちらのサイドにも撮られないよう、慎重に専門的な意見を述べていて、非常に内容は参考になる。オーストリア側の気持ちも代弁しているし、ユダヤ人にも同情的で、この三人はとてもうまく答えていると思う。

 

この映像で、唯一素晴らしいと思ったのは、6分くらいでウィーンのベルエポック時代の映像が出て来ること。超初期の市電や馬車バスが動いているのはちょっと感動します。

 

 

というわけで、英語ですし長いので、別に見る必要はないかもしれませんが、映画を見て本人たちに興味がある方々、映画よりまだ真実に近い(けど編集されてゆがめられた)バージョンを見たい方はぜひどうぞ。私は内容的にかなり参考になったので、一気に見てしまいましたよ。

 

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