2013-12-06 09:14 | カテゴリ:サウンド・オブ・ミュージックの歴史

小国でオーストラリアと間違えられやすいオーストリアですが、世界的に有名なのはモーツァルトとサウンド・オブ・ミュージックの2強。観光客もこの二つなら知ってる!って感じでしょう。

 

なのに、その2強のうちの一つサウンド・オブ・ミュージックは、オーストリアでは驚くほど無名です。かろうじて知っているのは、海外在住経験がある人。もちろん海外に行くと「サウンド・オブ・ミュージックの国だよね?」って聞かれるので、「何それ?」と思って滞在先のレンタルビデオで借りて見たりする人がほとんど。

 
オーストリアにいると、全くテレビで放映されたりしませんし、ドレミの歌やエーデルワイスなど、日本やアメリカでは誰でも知っている曲も、誰も知りません。(何度か歌ってみましたが、「え?それ、オーストリアに関係あるの?」みたいな顔されますw)

 
●映画や舞台を見た周りの人の反応

 
オーストリア人に映画を見せたり、一緒にミュージカルの舞台を見に行ったりして、感想を聞きましたが、おおむね私の周りの人たちは好意的です。

 
史実と異なる部分(山を越えたらドイツとかw)には意外にあまり突っ込まず、「ドイツ併合の時に反対したトラップ大佐みたいなオーストリア人がちゃんといたんだねー」って誇りに思っているような感じですらありました。

 
日本語ソースで、理由を調べてみたら「政治的な理由で気に入らない」「史実と違いすぎてアウト」みたいな記事をいくつか見つけたんですが、実はそうでもなさそうな感じです。

 
なので、「オーストリア人がこの作品を嫌いだから上映されなかった」のではなく、単に「知らなかったけど実はけっこういい作品じゃんって思っている」って感じなのかもしれません。

 
●この作品がオーストリアでイマイチ受けないわけ

 
英語ソースなら、オーストリア人の本音が聞けるのでは、と思い、ちょっと調べてみました。その結果、いくつかの理由が挙げられて、結構面白かったです。

 
この作品について答えているオーストリア人の6,7割はこの作品に好意的でした。理由は以下の通り。

 
・とてもいい映画だと思った

・オーストリアのイメージアップにつながる

・観光産業に大きく貢献している

 
手放しで賛成している人もいれば、「自分はこの映画が好きだが、一般的なオーストリア人はこういう理由で苦手なんじゃないか」という理由を挙げてくれている人もいましたので、その部分を切り取ってまとめてみます。特に多かった回答(回答数をかっこに書いています)。

 
・オーストリアのステレオタイプを描きすぎて気持ち悪い。シュニッツェルとかアップルシュトルーデルとかベタ過ぎて、外国人は面白いかもしれないけど、オーストリア人には受けない。ディアンデルやレーダーホーゼンのステレオタイプも不快。(4)

 
・オーストリア産のDie Trapp Familieという50年代の映画はもっと有名でドイツやオーストリアで好かれている。なぜ同じテーマで間違った内容の映画を作る必要があるのか。(3)

 
・音楽がアメリカ的、ハリウッド的過ぎる。オーストリアじゃあり得ない音楽。舞台と音楽や取り合わせがむちゃくちゃなので、オーストリア人の目からしたら不自然。(メアリーポピンズがバッハを歌ったり、インド映画で西部劇を撮影したりするのと似ているとの例えもあり)(3)

 
・ジェンダーがステレオタイプすぎる。女性は家庭教師、男性は男らしく、っていうのが古い。(2)

 
・オーストリアのミュージカル映画はあまりに豊富で質も高いので、わざわざアメリカのミュージカル映画を輸入してまで見る理由がない。(2)

 
・ニセモノのオーストリアの映画だから。作られた、イメージのオーストリアは実物に劣る。(1)

 
・史実と違う部分が多いので、遺族や地元民が反対したのでは。(1)

 
・政治的理由(ドイツ人の意見)。ナチスの黒い歴史を思い出させてほしくない。(←これは気にしない人も多いし、オーストリア人でこう答えた人はいなかった)

 
というわけで、なかなか面白い結果になりました。

 
まず、ステレオタイプがベタ過ぎ(やり過ぎ)ていやだ、という理由が一位ですね。気持ちはよくわかります。日本がヘンにステレオタイプされてる映画とか見てもなんか感じ悪いし。

 
そして、Die Trapp Familieという同じテーマの別の映画のほうが有名だから、という理由も納得。

 
あと、オーストリアのミュージカル映画がメジャーすぎて他のは目がいかない、っていうのもほんとよくわかります。日本じゃ知られてないけど、オーストリアのHeimatfilm(直訳すると「ふるさと映画」)はこちらではものすごい人気なので、わざわざSoM見なくても、似たようなもっと良質なのが沢山あるわけです。

 
音楽がオーストリア的じゃないっていうのは、さすがオーストリア人。やっぱりロジャーズ&ハマースタインとは言っても、違和感感じるんですねー。日本人からしたら、SoMの曲も名曲だし、ヨーデルとか取り入れて結構頑張ってる気がするんだけどなあ。

 
あと、意外なのがジェンダーを指摘した人が二人もいたこと。そんなに気になるかねえ。

 
興味深いことに、オーストリア人は政治的理由(トラップ大佐がナチス併合に反対したあたりのことね)は反対する理由と考えなかったのに対し、ドイツ人は「古傷を穿り返さないでくれよ。。」って思ってるってことですね。オーストリア人は、この辺の「オーストリア被害者論」を支持するような映画の作り方には、好意を持っているようです。

 

 
●オーストリア人を質問攻め

 
最後に、一般のオーストリア人にSoMについてどう思うか、なぜオーストリアで人気が出ないかを聞いてみました。インタビュー対象は、海外経験あり、滞在先の海外で、現地の人の勧められて映画を見た、ミュージカル好き男性。

 
この人は、「個人的にSoMは優れたミュージカル映画だと思うし、とても気に入った。ハリウッド的だとか、政治的だとか言う理由や、オーストリアがステレオタイプ化されていることで、不快な気持ちは全くなかった。音楽もとてもよかったと思う」、と言っていました。(ハリウッド作品と知っていて見たので、ある程度のステレオタイプ化は免れないし、不快なステレオタイプ化ではないと感じたそうです)

 
トラップ大佐本人については、この映画を見るまで全く知らなかったようで(第一次世界大戦では一応国民的英雄だったんですが。。)、第二次世界大戦でナチスに迎合するオーストリア人が多かったなかで、ここまでしっかり併合に反対したオーストリア人がいたこと、それが世界的に知られていることに対して、喜んでいる風でした。「ちゃんとこんなオーストリア人もいたのね」と見直したと言っていました。

 
オーストリアで人気が出ない理由は、①テレビで全く放映されない(なぜ放映されないかは本人もわかりませんでしたが、やはりHeimatfilmが有名すぎるのが原因かと。。)、②トラップ大佐が無名すぎる、の二つを挙げていました。

 
トラップ大佐が無名なんてありえない!すっごい有名な一家なのに!って言ったんですが、それじゃ日本で「硫黄島」って有名だった?映画で初めて知った人がほとんどなんじゃない?って言われて、納得。アメリカ人にウィニトゥ(ドイツ人が書いたドイツ語圏で超有名な西部劇小説とドラマ)知ってる?って聞いても、誰も知らないだろうし、そういうレベルで無名なんだよ、って言われました。

 
あと、上記で言及されていた、Die Trapp Familieというオーストリア産の映画については知らないとのことでした。私もオーストリアでこの映画のことは聞いたことないんですが、ちょっと気になったので見てみようと思います。

 
というわけで、SoMがオーストリアで無名な理由が、何となくわかってきました。傑作なのに知られていないのが残念すぎですが(マイフェアレディとか屋根の上のバイオリン弾きのほうがよっぽど有名)、オーストリアではオーストリアの理由があって知られていないようです。テレビ局が放映しないのが結構ネックなようですが、放映したらみなさんどう思うのかもちょっと気になります。

 


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